大阪府豊中市
南桜塚1-4-2
06-6852-4041
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きねやはんのまるごとアート vol.7より |
そのF 君を忘れない
黄金色に輝く霊峰が紺碧の空に高々と聳え、朝の訪れを華々しく飾る。今日も元気でレッツゴー。
ダニエルとお互いの住所を交わし、ガイドのテンシンに別れを告げようとしたところ急にダンが、「もう一泊していこう。」と言い出した。
次に滞在を予定していたトルカは眺めが良くない。それよりここの景色をもう一日味わって、明朝一気にナイヤプルまで下れば、
午後2時にはポカラに到着するだろうということだ。ダンはニヤッと笑って、「それにビナ(グルン姫)もいるし。」といった。
わたしはまた乗せられて、しょうもないことを言ってしまった。
「彼女がいてほしい、言うんやったらもう一泊してもかまへんで。」 |
霊峰を仰ぐナディナとダニエル |
男どもは笑い転げたが、ビナは後ろ向きにしゃがんでトウモロコシ
の実の選別をしたまま何の反応も見せない。しまった。
わたしも時々TPOをしくじるのである。荷物を下ろし、朝食を
とったあとにダンにネパール語のレッスンをしてもらう。
といってもわたしが知りたい言葉は以下である。
君は美しい → タパイ、デライ、スンダリ、フヌフンチャ
君は太陽のようだ → タパイ、カーン、シャスティ、デヒノ、ウンチャ
君を忘れない → モ、タパイ、ラィィ、コヒレヒ、ビルサナ、ソクディナ
これだけ知っていれば、いつでもどこでも愛は完璧だ。
いきなりビナに言うのは気が引けるので、まずは台所にいる彼女の
お母さんの前で通じるかどうか実験してみることにした。
普段寡黙なお母さんだが通じたのかどうか、カラカラ笑い出した。
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夕刻、ロッジの中庭に椅子とテーブルを持ち出し、皆で
ビールを飲んでいると、突然、数人のネパーリーシェルパが
現れた。わたしのリュックより大きいものを二つまとめて
背負っている男がいた。身長も体重も小学校三年生ほどの
小男である。と思いきや、次ぎから次ぎにヨーロッパ人の
ツーリストがなだれ込んできた。
女の子でも皆プロレスラー並の体格をしている。
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ピースフルロッジ |
「マルガリータ!」誰かが大きな声で叫び声を上げた。わたしはまたまた、しょうもないことを言った。
「あのぅ、日本語でスキンヘッドのこと、マルガリ(丸刈り)言うねん。」皆はイタリア人の方を向いてケラケラ笑った。
やれやれ、今夜は遅くまでドンチャン騒ぎだろうか。
1996.08.26 ネパールへ来てからというもの、わたしはいつもニワトリより早く起きて、体操をしたり、日記を書いたり、瞑想したりしている。
この時間帯が最も新鮮でクリアーな活動に適しているからだ。6時30分、ダンがお茶を飲まないかとやって来た。荷造りを済ませ、わたしたちは
母屋へ行くことにした。奥の方を覗くとベッドの上でビナがまだ布団に包まって寝ているようだった。だがわたしたちの声に気が付いてか
おもむろに起きだし、箪笥の蔭で着替えを済ませ、たちまちホテルのフロント係に早変わりしてわたしたちの精算を始めた。勘定はダンの仕事だ。
わたしは二人のグルン語のやり取りをただ眺めるばかりである。それにしてもなんと美しい発音のやり取りだろう。大きく流れるような母音の
アップダウンがあるかと思えば、キッキッと小刻みに停止するような子音の緊張があり、それらが微妙に係わり合って可憐なデュエットになる。
内容はわからなくとも言葉の響く魔力は計り知れない。そんな言葉のハーモニーの中にわたしの拙い英語を挟む勇気はなかった。
ダンに教えてもらった「君は美しい。」「君は太陽のようだ。」「君を忘れない。」も神聖なものとして容易く口にするのは控えることにした。 |
学校へ行くガンドゥルンの子供 |
最後にわたしはビナにピースフルロッジの住所を教えてもらい、自分の仕事の名刺を手渡して
別れを告げた。ダニエルとナディナとテンシンは玄関の前で待ってくれていた。
一人一人と堅い握手を交わし、いつかフランスで再会することを約束した。
さようならガンドゥルン、世界一美しい村ガンドゥルン、ありがとうヒマラヤ、
わたしとダンがアンナプルナ峰に向かって手を振るとイタリア人の世話で忙しく立ち回っている
ビナが玄関の扉から手を振り返していた。
「さようなら、グルン姫。達者でな。」
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