大阪府豊中市
南桜塚1-4-2
06-6852-4041







































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きねやはんのまるごとアート vol.7より
  そのD ヴェンタンティンの美人姉妹


  しかし、またもや雲が出てきた。晴れれば展望の利くプニヒルに行くところだが、ここは断念してデウラリへと向かうことにする。

 実をいうと、カトマンドゥのマノジュはこのコースに反対していた。彼はこの道は狭い上にぬかるんでいて、しかもリーチの多い

 危険なところだから来た道を引き返す方が確かだと言っていたのである。しかし、ダンは同じ道を辿るのは退屈で芸がない、

 デウラリを越えてタダパニまで行けば、明朝再び霊峰が見えるに違いないという。わたしはダンの意見に従うことにした。 

 だが、実際歩いてみるとなるほど厳しい。道がぬかるんでいる上、いたるところバッファローやドンキーの糞だらけだ。

 特に、バッファローのものはデコレーションケーキ程デカイのにも拘わらず、わたしはまともにホールインしてしまい、あわやその上に

 転倒してしまうところだった。おまけに、黒色のリーチが土の上にうようよいる。それが土と一緒に靴に引っ付くと人の体温を感じて、

 そろりそろりとズボンの隙間から入り込み、足首に吸い付くのだ。スパッツをつけていてもなんのその、かえって取るのに苦労した。

 そんな足元ばかりを見ていると、下痢便をかき分けて歩いているような気がして、腹具合が悪くなってきた。やばい。腹に力が入らないと、

 長い上り道はさすがにきつい。ダンはもくもくと前を行く。子供だったら負んぶしてもらうところだが、そうもいかない。

 しとしとと降り続く雨も気分を一層悪くさせる。ここは我慢しかない。



  ようやく平坦な尾根に出た。そこは霧が覆い、ぼんやりと浮かび上がったようにお花畑が拡がっていて、真っ白のドンキーが草を食んでいる。

 これで花輪を被った金髪の少女がいたら完璧に”森永ミルクチョコレート”だ。とりあえず、シャッターを切るが、多分露光が足りないだろう。

 森永チョコレートみたいなシーン

  9時45分、デウラリに着いた。看板に”トラ注意!”とあるが、驚く元気がない。茶店でしばらくへたり込んでいると、フランス人のカップルと

 そのガイド(テンシン)、続いてラムの一行がやって来て賑やかになった。気も紛れ、ラーメンを啜ると、体力が戻って来た。

 ここから例のヴェンタンティンまでなんとなく皆連れ立って行くことになった。ラムがにんまりとわたしの方を見て笑った。途中、ビッグフォールに

 遭遇したので、皆を手前にして写真を取ろうとしたらヨーロピアンの女の子が慌てて身を隠した。・・・ははーん、他に彼氏がおるんや。

 それで昨日NO!NO!言うとったんか。と想像していると、前でダンが石に滑って転んだ。 
  


  11時15分、ヴェンタンティンに着いた。谷あいの小川が流れる辺りに数件食べもん屋が点在している。

 ダンとテンシンが示し合わせて一軒の店の厨房に入って行った。わたしは最初遠巻きにしていたが、こっちへ来いというので付き合うことにした。

 中は薄暗く、釜戸の所で二人の娘姉妹が料理を始め出した。ラムもやって来て、わたしたち四人は長椅子に腰を下ろし、彼女らの働く様子を

 じっと見守った。読者の期待に答えて、わたしは感想を公正に伝える責任を痛感している。だから、言います。

  「どこに美人がおるの?わたしを騙したの?ねぇ。」 終わりー!失礼しました。

 わたしはがっくりと肩を落とし、一人とぼとぼと小川のほとりで空白感を紛らわそうとした。ネパーリーとヨーロピアンがこっちを向いて

 にやにやしている。くっそー、今に見とれ!小川に向かって小石を投げる。と、対岸に見える食堂に、 

  「おったー!!おったー!!美人や、美人や、おーい、ダーン。」 こうして吉本新喜劇の第一幕が終わった。 

 だが、この話はフィクションではなかった。わたしとダンは対岸の美人食堂で結局、2時間も休憩し、チャイの飲み過ぎで腹はちゃぷちゃぷ、

 おまけに夕方のスコールの洗礼をまともに授かり、「天罰じゃー!!」と叫ぶのだった。



  午後3時35分、どしゃ降りの中、今夜の滞在地であるタダパニに到着。ラムの一行は見当たらなかったが、テンシンとフランス人カップルは

 隣の部屋で早々とくつろいでいた。宛がわれた部屋に入ると、着ているものをかなぐり捨ててベッドに突っ伏す。しばらく、白いペンキで

 荒っぽく塗られた板壁をぼーっと眺める。新聞の切り抜きが何枚か張られている。どれも品格のありそうな政治家らしき人々の写真だ。

 わかったのはインドの故インディラ・ガンディ元首相だけだ。あとは見たこともない。だが、この風貌この品格に引けを取らない政治家は

 今の日本には見当たりそうにない。日本はこれからどうなるのだろう。一億総兵隊蟻になって、いったい誰について行こうとしているのだろう。



  わたしたちの夕食は楽しいものとなった。特に、フランス人カップルとはこの時に初めてゆっくり対話することができた。聞き取りにくい英語で

 苦労したが、旅馴れた人のいい二人で丁寧に言葉をリメイクしてくれた。男性の方は(四十歳代と見えるが)サキソフォンの演奏家で

 ダニエルといい、ショートカットの色白の女性はテキスタイルデザイナーのナディナという。まさに、どちらもばりばりのフレンチアーティストだ。

 楽器があったらさぞ盛り上がったことだろう。


  身も心も満足し、わたしたちは庭へ出た。

  ”月だ。” 

 そして、その月明かりに照らされて、

アンナプルとマチャプチャレがまるで恋人のように肩を寄せ、妖艶に宴のワルツを待っている。

雲は二人にシルクのスカーフを掛け、星々はきらきらと祝福の涙を流している。

はるばる日本からこの壮大なセレモニーに参列できたのはなんと幸福なことだろう。

とても偶然なことだとは思えない。

二つの山はわたしに真実の愛の有り様を語ってくれているような気がした。

その@  そのA  そのB  そのC  そのD  そのE  そのF  そのG


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