大阪府豊中市
南桜塚1-4-2
06-6852-4041







































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きねやはんのまるごとアート vol.7より
  そのC 天空のダウラギリ峰

  1996.08.22


  夜通し降り続いた雨は嘘のように止み、遠くで野鳥の声がこだまする。静まり返った山の精気に身を浸透させるようにして、しばし心を統一。

 コンディションは上々だ。朝粥で冷えた身体を暖め、7時35分ティルケドゥンガを出発。標高2000mあたりをアップダウンしているので、

 昨日程蒸し暑くもなく快適である。岩肌からは水が簾のように滲み出し涼を呼ぶ。ダンが垂れ下がったシダの葉の先端に体長3cm程の

 リーチ(ヒル)がぶら下がっているのを見つけた。赤い色をしたリーチで、身体のどこにでも吸いつき、思う存分血を吸う。

 少々引っ張ったぐらいでは取れないらしい。道端の石の上に一滴、二滴と赤い血が落ちていた。くわばらくわばら。

  10時25分、バンタンティに着き、少し早めの昼食をとることになった。この頃になってようやく読めて来た。

 ダンが休憩に選ぶ所は決まってかわいいネパール娘のいる店だったのだ。 

  「こら、ダン。そうやったんか。」 ダンは顔を真っ赤にして笑った。丸顔の愛想のいい娘が注文を取りに来た。

 さっきダンは黄色の雛菊のような花をたくさん摘んで手に持っていたので、わたしはここぞとばかり、「ダン、それ、それ。」 と、合図を送ったら、

 今までにやけていたダンは急に真顔になって、恥ずかしそうに娘に花束を手渡した。彼女の方はいたく冷静のようで、

 手際良く それをテーブルの花瓶(実はファンタの瓶)に差した。

  ラジオから流れてくるはやり歌に乗せられて、わたしはとうとう自己流ヒンディダンスを踊ってしまった。

 村のオバタリアンにも笑われ、しばらくは噂になるかもしれない。

  
                                     天然のシャボン玉を膨らますダン



  午後2時45分、ようやく目的地のゴレパニ峠に到着。天気がいいとヒマラヤの尾根が一望に見渡せるところだが、無上にもガスが垂れ込め、

 近隣の木立もぼやけているといった有り様だ。がっくり、山小屋に入り、荷物を降ろすと、そのままベッドに突っ伏した。しばらく休んでいると、

 隣の部屋が騒々しくなってきた。ウレリの茶店で遭遇したネパーリーの男の子とヨーロピアンの女の子のカップルだ。

 どう見てもナンパしました、という感じの不釣り合いの二人である。ベニア板一枚隔てただけなので、何から何までまる聞こえだ。

 そのうち女の子の方が”NO!NO!”と、叫び始めた。なんでそんな体力が残っとんねん。元気やなあ。窓の外は激しい雨が降り出してきた。

 中は大地震。ゴレパニとはなんと賑やかな所だろう。標高3000m、隣は熱いだろうが、こっちは寒くなってきた。と、思っているところに

 ダンがやって来て、食堂にストーブがあるから来いと言う。ありがたい。

 それは土で固められた薪ストーブで、ほんわかとした柔らかい暖かさが伝わってくる。人に優しいとはまさにこの事を言うに違いない。

 雨の音が止み、何げなく窓の外に目をやると、雲の隙間に青空が見えた。

 そして、な、なんと、マチャプチャレ峰の方角に巨大な虹が架かっているではないか。大喜びでダンと戸外へ出て、シャッターを切った。

  ひょっとして明日はヒマラヤが見えるかもしれない。
 


  昨晩のティルケドゥンガの静けさとはうって変わって、今夜は賑やかだ。わたしとダンの他に、先程のナンパカップルのガイドを務めている

 ラムが加わったからだ。地酒のロキシーで乾杯を始めると、宿のお爺さんが気を効かせて、ヤクの照り焼きのような肴を一人づつ小皿に盛って

 出してくれた。一口サイズでうまそうだが、これが噛んでも噛んでも噛み切れない。これでは一万回噛んでも終わらないと諦めようとしたところ、

 ダンがお爺さんに叱り付けるような口調で、もっと火を通すようにと要求した。お爺さんは首をかしげながら再度焼き直して持って来てくれたが、

 今度は一目瞭然、すっかり炭になっていた。せっかくだからと、二人が勧めるので我慢して齧りつくと、コキーンという音がした。 

  「こんなもん食ったらガンになるぞー!!」 お爺さんの前ではあったが、わたしはついに叫んでしまった。二人は酔いに任せて大笑いした。 

  「ネパールの女の子はええなぁ。」とわたしが振ると、ラムの表情がまた緩んだ。 

  (わたし)「ダンいうたらなぁ、休憩するとこ、かわいい子のいる店ばっかり行きよんねんで。」 

  (ラム)「(笑)」 

  (ダン)「違う、違う、今までのはみなブスばっかりやった。(笑)」 

  (ラム)「オオガサン、ヴェンタンティの娘はすんごい美人揃いだよ。それに働きもんで旦那にも良く尽くす。」 

  (ダン)「そう、ネパール中の評判だ。」 

  (わたし)「(そんな情報は”地球の歩き方”にも絶対載ってないこっちゃないかい。)それや!それや!そこ通るんかいな。」 

  (二人)「(口を揃えて)明日、泊まる所さ。」 

  (わたし)「ええなあ、ええなあ、二、三泊していこか。」 

  (二人)「(大笑い)」

  (ラム)「ヴェンタンティの娘さんと結婚しますか?」 

  (わたし)「とりあえず、グループ交際からや。」 

 爆笑に継ぐ爆笑。ロキシー片手に、わたしたちの話題はすっかりヴェンタンティで花盛りとなった。

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