大阪府豊中市
南桜塚1-4-2
06-6852-4041







































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きねやはんのまるごとアート vol.7より
  そのE ニッポンに行きたーい!

  
  1996.08.24
朝8時、フランスチームと共にタダパニを出発。

 天気も良く、ほとんど下りなのでバッファローのうんこを踏んだ以外は

 楽勝だった。11時45分、早くもガンドゥルンに入った。1000年も

 タイムスリップしたような簡素な集落である。道幅の狭い生活路の

 両側はスレート状の石積の塀が山の斜面に沿ってうねり連なっている。

  その塀の内側に村人の暮らしがパノラマのように展開する。

 水場で白い歯を光らせて行水する裸の子供達、軒下に吊るされた

 ダイコン、庭に拡げられたトウモロコシの実、その横で昼寝するおばさん、

 自由に闊歩するニワトリ、茅葺きの簡素な小屋で身を横たえる牛たち、

 そして、溢れんばかりの緑、わたしにとってはどれもこれもが新鮮で、自然で、元気だった。忘れかけていた本来の人の暮らしがここにあった。

 ここはまさにわたし自身の故郷だった。


  

  ダンとテンシンが示し合わせて向かった宿は見晴らしの利く丘の上のピースフルロッジという、

 今までで一番清潔で落ち着いたところだった。

 平屋建てのゲストハウスのポーチには藤製の椅子とテーブルが行儀よく並んでいる。

 腰を降ろすと目の前にマチャプチャレが悠然と聳えている。なんと長閑かな晴天だろう。

 久しぶりにシャワーを浴び、髭を剃り、洗濯をする。

  午後はゆっくり昼寝をしたり、ごろごろ本を読んで過ごした。

 夕方カメラを持ち、つっかけのまま一人で村を散策しようと出かけて見た。

 見晴らしのいいところでしゃがんでいると、眼下の二階建てロッジの屋上に

 色白のメガネを掛けた日本人らしき青年が見える。

 行って見ようかと思っていると、偶然に向こうから石の階段を登ってやって来た。

  「こんにちわ。」 と投げかけて来た言葉は大阪弁だった。

 茨木に住むA君、大阪大学工学部四回生の学生さんだ。しばらく一緒に歩きながら

 久しぶりの日本語の会話を楽しむことが出来た。


マチャプチャレ峰


  子供達が愛想よく元気一杯に「ハローハロー、」と寄って来る。

 写真を撮ると「ルピールピー、」と手を出して小銭を要求した。後ろの方で

 母親の叱る声がする。男の子がA君のカメラを持って離さない。

  「そんなんしたらカメラが汚れるがな。こらこら、レンズが油だらけやがな。」

 しばらくぶりに聞く大阪弁はやっぱりおもろい。

  日が陰り辺りが薄暗くなってきたのでわたしたちは別れることにした。

 同じ大阪に暮らすわたしたちだが、もう二度と会うことはないだろう。

 しかし、日本からはるかに離れた異国の地の何げない一時の出会いは

 多分生涯心に残るに違いない。普段、我々は何げない出会いを日々限りなく

 繰り返しているが、もし、今のようにいつでも深く心に留めることが出来たなら人生はなんと実りあるものであろうか。

  大切にしなければならないものがそこら中に転がっていることをもっと知る必要があると思う。



  ピースフルロッジの母屋でダニエルとナディナ、それに悪友のダンとテンシンで夕食をとり、恒例の酒盛りをする。テンシンはスリムで背が高く、

 しかも溌剌とした美男子だ。日本に生まれていれば俳優かモデルをやっていてもおかしくない。ダンも黙っていればハードボイルドな二枚目だ。

 だが、ひとたび冗談を始めると若さも手伝ってか、二人ともその限度とかTPOというものを知らない。ピースフルロッジにも二十歳そこそこの

 純情可憐なグルン族の娘さんがいた。それを彼らはいきなり昨日のネパール姫との夫婦漫才の延長のような調子で冷やかしを始めるのだ。

  これまでの前例ですっかり二枚目としてのステイタスを失墜してしまったわたしにとって残された道はこの天使のような純真無垢なグルン姫の

 前でも全員の満足できるジョークをヒットさせることしかなかった。断崖絶壁に立たされた気分でわたしは乙女の前でついに叫んでしまった。 

  「ニッポンに来たいかー!!」 全員、爆笑。するとなんと彼女の口から、 「ニッポンに行きたーい!」と返って来たのである。

 その瞬間、わたしの心臓は天にも届きそうな高鳴りを響かせた。いてもたってもいられなくなり、わたしは表に飛び出した。

  (うーん、あかん、あかん。あってはならんことや。目覚ませ。)

 深呼吸をしてふと見上げると、昨晩よりも一曹輝きを見せるアンナプルナ・サウスの愛しい姿があった。その大きさがわたしの心を優しく包んで

 くれるような気がした。後ろからダニエルとナディナがやって来た。二人はもう14年も一緒に暮らしているという。しかし、結婚はしていない。

  「その方がいいのかな。」とわたしが言うと、ダニエルはあっさりと否定した。男と女の関係は実際どこも複雑だ。

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