大阪府豊中市
南桜塚1-4-2
06-6852-4041
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95年9月15日 港の朝は早い。船のエンジン音に交じって、海鳥の鳴き声がこだまする。
太陽が昇り逆光線になる前に、部屋の窓からスケッチを始めた。
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釜山 岩甫洞 ホテルの部屋から |
9時、チェックアウト。宿のおばさんの笑顔を背に、タクシーに乗った。ここから空港まではそう遠くない。わたしはふと考えが浮かび、
運転手にガイドブックを差し出して、「トク!トク!」と叫んだ。トクというのは韓国の餅類の総称であり、その種類も様々で、例えば、うるち米に
濁り酒を入れて蒸したキジュトク、小豆や緑豆の餡餅であるシルトク、よもぎ入りのスクトク、栗入りのパムトク、春はつつじの花びら、秋は菊の
花びらを貼り付けた餅菓子のファジョンなどが代表的である。
その土地に行けば、その土地のお菓子を買って帰るのが、わたしにとって一種の職業病のようである。
運ちゃんは気を利かせて、車を走らせながら一生懸命探してくれたが、残念ながら見つけた店はどれも今風の焼きたてパン屋さんばかり
だった。時間も限られているし、ここは妥協して、わたしは緑豆の餡パンと大納言かのこ入りの蒸しパンと土産のお菓子をいくつか買って
タクシーに乗り込んだ。韓国のタクシーは客が乗っていても、途中、人がいれば相乗りさせる習慣がある。
キャップの後ろからポニーテールを垂らしたジャネット・ジャクソンバリの女の子が突然、乗り込んできて、興奮したように、チャンヤンカンヤン、
言い出した。わたしは蒸しパンを喉に詰まらせ、胸を叩きながら残りをカバンに押し込んだ。ポニーテールは500メートルも行かないうちに
1000ウォン(110円)を払って、走り去って言った。運ちゃんは「フウ」とため息を漏らした。
見晴らしのいい高速道路に出ると、運ちゃんはグンとアクセルを踏み、カセットをかけた。乗りのいい韓国ロックが鳴った。
最後のフィナーレだ。
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